UnBooks:とある帰路にて
どうして…どうしてこんなことになってしまったのだろう?私は…こんなところに座って、何をしているのだろう?
私は自問自答した。一体、何故私は。ここに、このカウンターに、腰かけているんだろう。
ほんの少し前の事だった。
私はDという商社のセールスマンをしている。普段は残業も多く、遅くに帰るのだが今日は珍しく早く帰路につくことができた。
そのようなことはあまりないので、久々に会社帰り、外食に赴いたのだ。
高級店などあまり行ったこともない私は、身の丈に合った、そこそこ小奇麗程度の和食の店に入ったのだった。
それが間違いだった。
中に入ると、和服の女将らしき人物が出迎え、私をカウンターへと誘った。
思ったよりも高級だったかな、と少し財布の中身を気にしつつも、女将に誘導されるがままカウンターについた。
すると、女将はそそくさと裏に引っこみ、カウンターの前に厳つい顔の男が現れる。
「お客さん、一見さんだね?うちの店にゃあ珍しいが、ゆっくりしてってくれや。どうだい、何にする?」
厳つい顔の男は、とても商売人とは思えぬ台詞を吐いた。高級店というものはこういうものなんだろうか?
私は同様しつつも「おまかせで」と、店のおすすめを頼んだ。おすすめならば、外れもないだろう。
財布もきっと大丈夫、いざとなったらカードだってある。
そんなことをのんきに考えていたが、今思えば私はそんなことよりも素早く店を出るべきだったのだ。
おまかせを頼むと厳つい男は「おい野郎ども、おまかせだそうだ!」と厨房のあるらしい店裏に向かって叫んだ。
そして次に私は、耳を疑った。
「おまかせだからよ、光もん出せや!」
光り物、そしてこの厳つい風貌。私は、激しく後悔した。
よく聞けば、奥から小さく『シュッシュッ』と、何か刃物を研いでいるらしい音が聞こえた。
私の頬を冷や汗が垂れる。
そして、怒号。
「てめぇ何年いやがるんだ!そんなんで殺れるかってんだ!」
「ひぃ、す、すまねぇ兄貴ぃ!」
そんな台詞、Vシネマくらいでしか聞いたことがなかった。
逃げなければ、と思ったが失敗すれば危うい。
そこで私は、携帯電話をいつでも警察にかけることができるよう、セットした。
刃物を研ぐ音、罵声、光り物。
私はとてつもなく、恐ろしい。どうして、何故、私はこんなところに座っているのだろう。
このまま、私はドスで刺されるのだろうか。独身だし恋人もいない。嫌だ、そんな人生で幕を閉じるのは。
青白い顔をしながら、携帯電話を握りしめる私の前に、突然「カツッ」と、子気味のいい音と共に小さ目な皿が置かれた。
「コハダ一丁!」
厳つい顔をした男は、私に笑いながら言った。